自分を見つめ、過ちを悔い改め、平和を願う――薬師寺・大谷徹奘(てつじょう)さん法話

 毎年3月25日から31日までの7日間、1000年以上の歴史を持つ薬師寺最大の行法である「修二会(しゅにえ)」が執り行われます。元来は2月に修する法会なので修二会と言いますが、現在は旧暦の2月に当たる3月に厳かに執り行われています。

 10人の僧侶が俗世を離れ、日に6度、薬師如来、日光・月光両菩薩の御宝前において鎮護国家、万民豊楽、五穀豊穣(ほうじょう)をはじめ、鎮除疫病、世界平和などをご祈願し続けます。

 堀河天皇の御代からは、この修二会に10種類1600本の色鮮やかな造花が供えられるようになりました。花に会える儀式という意味で「花会式(はなえしき)」の名称で親しまれています。

 修二会でお唱えされるお経を「悔過(けか)」と言い、独特の節のついたものです。薬師寺ではこのお経を僧侶だけでなく、参拝者にもお経本が手渡され一緒に唱えるという伝統があります。僧俗一体となって唱えられるお経は「満堂悔過(まんどうけか)」と呼ばれ、実に荘厳です。残念ながら現在はコロナ禍のため僧侶のみでお唱えしています。

 悔過を読み下せば「過ちを悔いる」となります。これは意識・無意識を問わず私たちが犯してしまう罪を懺悔(さんげ)し、改めることを意味します。

 人の心には、貪(むさぼ)りや怒りなどが起因となって、すぐに波が立ちます。その波は決してなくすことはできませんので、心を整えることによって、出来るだけ波が小さくなるように努めるしかないのです。そのためには自分の行為を省み、過ちがあれば改めるしかないのです。

 人には目・耳・鼻・口・皮膚と、外側を観察する五つのアンテナが付いています。しかし、自分自身を指すアンテナはありません。それが故に自分を見失い、心の波を大きくしてしまうのです。

 人の世は種々の価値観で成立しています。しかし、それを理解せずに自分の価値観だけを振り回し、貪りや怒りを爆発させれば争い事が連鎖して、全てが不幸に陥ってしまいます。

 今こそ全ての人が「悔過」をし、平和な世界を創らなければならないと、声を大にしてお伝えしたいです。

合掌

(薬師寺執事長 大谷徹奘)

写真=造花が供えられた薬師如来の前で悔過の行が続けられる修二会(薬師寺提供)

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